PROGOS

ビジネスパーソンの
スピーキング力はこう伸ばす
インターネットやスマートフォンの普及により、英語学習がより身近で手軽になった昨今、リモートワークの隙間時間にオンラインレッスンを受けたり、研修に参加したり、日々のルーティンに英語学習を取り入れているビジネスパーソンも多いことでしょう。
今回は日本人のスピーキング力や現状の課題、テストを活用したビジネスパーソンのスピーキング学習について、コロンビア大学とUCLAで英語教授法を専門に学び、企業研修での指導経験も豊富な江藤友佳さんにお話を伺いました。

Profile 江藤 友佳 えとう ゆか

Y.E.Dインターナショナル合同会社CEO
クレアモントマッケナ大学卒業後、UCLA Extension CenterでTEFL(外国語としての英語の教授法)を学び、コロンビア大学大学院ティーチャーズカレッジで英語教授法の修士号を取得。
PwCコンサルティングでコンサルタント業務を経て、人材育成に関わることもできる研修業界へ。株式会社アルクで教育教務主任として多くの教材作成や企業研修、教員研修を担当した後に、楽天株式会社で英語化プロジェクトのco-leaderとして社員教育に従事。英語教育事業部の立ち上げ支援後に独立し、現在は教材制作の下請けやアドバイザリーサービスを提供している。
著書に『ロジカルに伝わる英語プレゼンテーション』(クロスメディア・ランゲージ)がある。

肩書はインタビュー時のものです

たくさん話せば、スピーキング力は伸びる

Q.義務教育も含めると、日本人ビジネスパーソンの大半はかなり長い年月をかけて英語を学習しています。それでもいまだに英語が話せないという人が多いのは、なぜでしょうか?

一番の原因は、日本の英語教育では「話す」機会が少ないことでしょう。例えば私は、アメリカの大学で中国語を学び、3年後には中級レベル(中検2級レベル・ACTFL OPI Advanced Low)に達しています。入学時はまったく中国語が話せず、授業は週3回のみ。それでもここまで力を伸ばせたのは、授業中は英語禁止、ランチの時間は中国語クラスのチューターと同じテーブルに座るなど、中国語を話さざるを得ない機会を多く与えられたからです。

Q.確かに、外国人の語学習得のペースは、日本人よりもかなり早い印象があります。勉強方法そのものが違うのだろうとは思っていましたが、「話す時間」の量が違うんですね。英語を学ぶ場合も、授業では英語のみを使用し、授業以外の時間も英語を使う時間を設けるなどとにかく話さないといけない状況を作ることがポイントですね。

最近は日本の学校もスピーキングの授業に力を入れるようになってきたので、私が授業を担当している大学の学生などは、すごく流暢に話しますよ。どこで習ったの? というような単語を使いこなしていたり、プレゼンがすごくうまかったり。
でも、話せればいいかというと、決してそうではありません。私から見ると、今の学生は流暢に話せる一方で、間違いも多い。これは中高の教育が「話す」スキルを重視し、言葉使いや文法のチェックを後回しにした結果だと思います。

目標は「流暢」で「TPOに合った」会話力

Q.文法や構文にこだわりすぎて話せないという過去の反省が、そういった反動になって表れたのかもしれません。

そうです。特に気になるのが、TPOに合わない言葉遣い。講師の私に対しても友だちのように話しかけてくる学生には、「それだけ話せるんだから、次は場面や相手に合った話し方を考えよう」と、伝えています。英語初心者ならば、敬語や丁寧語が使えなくても、例えば「おかけ下さい」と言うべきところを「そこに座ってろ」なんて命令形で話しかけてしまっても、相手は寛大に受け止めてくれるでしょう。でも、ある程度英語が話せる人の場合、 TPO に合った話し方ができないと、単に「失礼な人」と捉えられてしまいます。

Q.ビジネスパーソンの場合、TPOを踏まえたスピーキング力は、特に重要です。スピーキングのスキルとTPOに合った話し方の両方を身に付ける秘訣は、あるんでしょうか?

学習のゴールを2段階に分けて設定するといいと思います。初めはアウトプットをスラスラ流暢にするというゴールで、次がTPOに応じた立ち振る舞いを身に付けるというゴール。1つ目のゴールは個人でも学習できますが、2つ目のゴールについては、それがビジネスシーンにふさわしい表現なのかをチェックするネイティブスピーカーやグローバルビジネスの常識をよく認識している人の手助けが必要です。

Q.TPOについては外国の文化なども関係しますから、正しい知識を持った人に教えてもらうのがいいですね。そのほか、スピーキング学習に関して気をつけるべきポイントを教えてください。

同じスピーキングでも、どのような場で英語を話せるようになりたいのかによって、身に付けるべきスキルは異なります。早くゴールに近づくためには、学習者の目的が日常英会話なのかトラベル英会話なのか、それともグラフなどをプレゼンで自分の考えを伝える力なのかを具体的にすることが大切です。
ただし、日常会話ができない人がいきなりプレゼンテーションや会議向けの練習をするのは無理があります。学習のスタート地点は、目的と現在の英語レベルの掛け算で決めるもの。目的がなんであれ、基礎的な英語力が不足している場合は、まずそこから始める必要がありますね。

CEFRは、語学測定の共通物差し

Q.ビジネスパーソンの中には英語力チェックのために、定期的にテストを受験している方もいらっしゃいます。リーディングやリスニングのテスト同様、スピーキングテストも、今は色々なタイプが実施されていて、例えばPROGOS®は、テスト結果の評価にCEFRやCEFR-Jといった基準を使っているのですが、江藤さんはCEFRやCEFR-Jの基準についてどのようにお考えでしょうか?

CEFRやCEFR-Jは、いわば「共通物差し」のようなもので、上手に用いれば企業側、社員側双方にメリットがあるでしょう。例えば、海外駐在に必要な英語力を、特定のテストスコアではなく「CEFRのB1」と規定しておけば、社員が受けられるテストの選択肢も広がりますよね。

Q.CEFR準拠でないテストを受けた人であっても、今はたいていCEFR換算表があるのでそれを使えば共通に評価できますね。

ただし、CEFRは“Can Do statement” 、つまり、「このレベルの人は、概ねこういうことができます」という内容を定義したものであり、そこにリストアップされたすべてをできるという意味ではありません。その意味で、CEFR, CEFR-Jはその人の英語力のあくまで「参考値」であることを、理解しておいて下さい。

Can Do statement は、CEFRの中心的な概念である「言語学習者が現実に何ができるか」を相対的に表したものということを理解しておくことが大事なんですね。

テストで弱点を把握、学習で克服

Q.現在の企業におけるCEFRの認知度について、どのような印象をお持ちですか?

全ての社員に一定以上のTOEIC®スコアを求めるような企業では、CEFRの認知度も高いですが、昔ながらの企業、例えば20年前の管理職昇格要件をそのまま運用しているようなところでは、まだあまり知られていない印象です。
とは言え、最近はオンラインで海外とやりとりをする機会が増え、多くの企業が社員の英語力を正しく把握したいと考えていますから、今後状況は変わるはず。英語力を測定・評価する過程のどこかではCEFRの情報に触れざるを得ないので、今はまだCEFRに馴染みのない企業も、それぞれに適した方法でCEFRを導入していくでしょう。

Q.オンラインでのやり取りが普及し、海外とも気軽にコンタクトを取れるようになった分、英語でのコミュニケーション力が求められる機会は、さらに増えそうです。
ちなみに、スピーキングテスト、PROGOS®では、テスト結果から学習につなげるという使い方ができるように、総合評価以外にCEFRに準拠した6項目からの詳しいフィードバックも提供しているのですが、これについてはどのように考えられますか?率直なご意見をお聞かせください。

受験者にとって、有用な機能だと思います。ETSやケンブリッジなどのテスト運営組織は、テストの先の学習プログラムにはそれほど力を入れていませんから、テストと学習内容を連携させつつ、テストで判明した「弱点」を克服するレッスンを提供できるのは、御社の強みではないでしょうか。
また、PROGOS®にはグラフをみながら説明するタスクのように、仕事に直結している内容も盛り込まれているので、プレゼンテーションのような場で英語でさまざまなデータについて説明するスキルを知りたい場合にも、役立ちそうですね。

ありがとうございます! 今後もテストや研修を通じて、学習者をサポートしていきたいと思います。