PROGOS

「アウトプットされない能力に給料は払えない」
~効果的な英語研修の設計とは?~
「アウトプットされない能力に給料は払えない。」これが企業の本音とすると、英語の壁さえ突破すれば、社員が元々持っているスキル・能力をアウトプットする場は、世界に広がります。社員の英語スピーキング力強化を、企業はどのよう支援すればいいのでしょうか? コミュニケーション教育を専門とする立教大学の松本茂教授に「スピーキング力を高める英語研修の設計」について、お話を伺いました。

Profile 松本 茂 まつもと しげる

立教大学経営学部国際経営学科教授、同大学グローバル教育センター長
マサチューセッツ大学ディベートコーチ、神田外語大学助教授、東海大学教授などを経て、2006年より立教大学経営学部国際経営学科教授、同学科バイリンガル・ビジネスリーダー・プログラム(BBL)主査。
2014年より立教大学グローバル教育センター長、2020年より東京国際大学国際コミュニケーション教育研究所顧問を兼務。NHK の語学番組ではEテレ「おとなの基礎英語」講師などを歴任。企業や教育機関向けの講演や指導も多く手掛ける。

肩書はインタビュー時のものです

「話す」は「聞く」「読む」より難しい!

Q.英語学習に取り組むビジネスパーソンの多くは、会議や商談でも使える会話力を目標にしていますが、中には「単語や文法はだいぶ分かるようになったけれども、スピーキング力だけがなかなか伸びない」と感じている方もいるようです。そもそもスピーキングは、リーディングやリスニングよりも習得が難しいのでしょうか?

スピーキングがリスニングやリーディングよりも難しいと感じるのは、当然だと思います。まず理解していただきたいのは、「話す」という行為は、とても複雑だということ。例えば2者間の会話では、相手の言葉を音としてキャッチして、質問の意図やキーワードの意味を捉えて、それに対する適切な返答を考えるという一連の作業を、瞬時に行わなければなりません。それが英語の会話ならば、さらに自分の考えをどのように英語で表現するかを考えたり、発音や文法に気を付けたりする必要もありますからね。

Q.確かに「話す」という行為には、複数の作業が含まれていますね。

ビジネス向けの会話教本を使って定型表現を覚えれば、ある程度のやり取りには対応できるようになるでしょう。そういった練習も大切ではありますが、定型表現だけ覚えていても会話は続きませんし、そもそも社会人が英語を「話せる」と言うからには、話の内容も充実している必要があります。ビジネスシーンでは、主体性を持って話し合いに参加し、適切な語彙と発音で自分の意見を主張できて初めて英語が「話せる」と言えるんです。

ビジネスシーンは「話せて当たり前」の時代

Q.そういったハードルの高さはあっても、なお多くのビジネスパーソンが「スピーキング力を伸ばしたい」と考えています。やはり実際に仕事をする中で、英語を話せることの意義、必要性を実感する場面は多いのかもしれませんね。

ビジネスパーソンの場合、英語のスピーキング力はもはや誰もが身に付けておくべき必須スキルです。以前、大手メーカーの人事部長を大学にお招きし、ビジネスシーンにおける英語力の重要性について講演をしていただいたところ、講演後の質疑応答で一人の学生が「英語よりも、話の内容や経験の方が大切なのではないか」と質問をしました。するとその方は「英語しか通じないビジネス環境では、『英語を話せない=能力がない』とみなされます。アウトプットされない能力に、給料は払えません」とはっきりお答えになった。これこそが、企業の本音でしょう。これからの時代、英語のスピーキング力はビジネスパーソンの必要条件であり、企業の人材育成要件と捉えるべきです。

スピーキング力を伸ばす研修設計のポイント

Q.企業で英語スピーキング力育成の研修を有効に実施するための、アドバイスをいただけますか?

企業研修の設計では、心がけていただきたい点が2つあります。
まずは長期的な視点を持つことです。研修の企画担当者が変わったら、プログラムの内容がまるで変わったということ、よくありますよね。担当の方にはそれぞれの考えがあるわけですし、変えることの意義も理解できますが、より良い研修プログラムを提供するためには「積み重ねの作業」が不可欠。どんな素晴らしい研修会社でも初めから100%完璧とはいきませんから、研修担当の方はプログラムの作り手側と意見交換やネゴシエーションを繰り返しながら、研修の質を上げていきましょう。
もう一つは、学習サイクルを意識することです。語学学習は、Practice(個人学習)、Interaction(対話的学習)、Communication(実践)の3つで構成される「PICサイクル®(ピックサイクル)」をいかにうまく回すかがポイントになります。ビジネスパーソンの場合は、 移動時や週末の勉強を Practiceに、 研修をInteractionに、 実際のビジネスシーンでの英語のやりとりを Communicationに当てはめて考えてみてください。日々の学習や研修で身に付けた知識は、実際の仕事で使ってみる。実践で使えなかったところは次の課題として、また個人学習・研修から始める。この作業の反復で、スピーキング力はもちろん、英語力全体を底上げできるんです。
研修のメリットは、1対1での対話練習など一人ではできない内容を網羅できる点ですから、音読やリピーティング、シャドーイング、問題集を解く作業のように個人でもできる練習を敢えて研修の中で行う必要はありません。個人学習と研修をうまく使い分けられれば、PICサイクルにそった効率よい学習が可能になります。

Q.では、研修ではどういった練習に取り組むべきでしょうか?

ディベート、ディスカッションの活動をぜひ取り入れてほしいですね。ただし、その際は必ず、社会人の会話にふさわしい「意味のある話題」を取り上げること。時事問題や旬のニュースについて英語で意見を交わす練習は、英語力だけでなく思考力の訓練にもなります。英語力が高くてもその話題についての知識や考える習慣がなければ意見を述べられませんから、この2つを同時に伸ばすことはビジネスパーソンが英語を学習する上でとても大切です。
また、研修担当の方にぜひ行っていただきたいこととしては、個人学習の支援もあります。個人学習の目的は、英語を使って話したい内容とビジネスシーンで使える英語表現の「融合」です。その点を踏まえて、受講者の業務に関連したリーディング教材やフレーズ集を紹介するなどの適切なサポートを行えば、個人学習の質も、それに続く研修の効果も高まります。今はウェブ上にもいい学習素材がたくさんありますから、ぜひ活用してください。

テストで「伸び」を確認し、学習意欲を維持

Q.社員が継続的にスピーキング力向上に取り組むためのコツはありますか?

私はスピーキング力も含め、英語力を伸ばす3要素は、「モティベーション」と「学習時間」︎「学習法」だと考えています。学習意欲が高まれば、日々の勉強時間も増えるし、学習法の幅も広がる。モティベーションの維持は、学習者にとって重要な課題です。モティベーション高める方法はいろいろあるでしょうが、研修の前後にテストを受けて違いをチェックするのもいい方法です。
スピーキングテスト、PROGOS®を使えば、「表現の幅」や「流暢さ」といった項目別に力の伸長度を把握できるので、学習意欲を高めつつ、自分の苦手分野も見極められる。これは学習者にとってメリットですね。また、PROGOS®もそうですが、テストの中にはCEFR、CEFR-Jといった国際基準に基づいて結果の評価をしているものがあります。このような基準に照らして学習者が自身の英語レベルを客観的に把握できれば、モティベーションの維持や学習のプラン作りにも役立つでしょう。

スピーキング力向上には、自分の立ち位置とゴールを客観的に把握することが大事なんですね。本日はありがとうございました。